売り言葉にラブを

コピーライターなんですが、言葉と女心について語りつつ、本やマンガやアニメのことも

習い事の思い出

4月という季節柄、習い事を始めている人

も多いだろう。今は、習い事とは無縁だが、

若いときを振り返ると、

色々と思い出すことがある。

今はどうなっているのか知らないが、

私が若かった頃は、京都の女の子はみんな

否応無くお花やお茶のお稽古に通っていた。

まあ、花嫁修行?毎晩のように飲み歩き、

豪快に遊びまわっていた友達も

「今日私、お花の日やから遊ばれへんし」

と言っていたくらいなので、

ほぼすべての女子が

何かしら習い事をしていたはずだ。

長いものには進んで巻かれる私。

御多分に洩れず、お茶、お花、料理、着付け

まで習っていた。そして、何一つ

身についていないのが悲しい。

一緒に着付けを習っていた友達は、

今でも自分でサッサと

着物を着ることができるのに、

私はゆかたの帯も結べない。

お花もひときわ下手だったなあ。

そんな習い事の中でも、思い出深いのが

お習字だ。これは、私が何かの展覧会を

見に行ったときに受付に小筆がおいてあり、

自分の名前を書いたら、思いっきり

下手くそだったことから習いたいと

自ら言い出したものだ。

それは殊勝な心がけと喜んだ母が、

ご近所のおばちゃん情報で、

お習字を教えているおじいさんがいる

ということを聞いてきた。

早速そこに通うこととしたのだが、

行ってみると、先生は想像以上に

高齢であった。立派な和室に通されると、

もう一人私と同じくらいの年齢の

女性がいた。聞くと、その人も

初日ということだ。

二人並んで机の前に正座する。

そこで、おじいさんがおもむろに言った。

「今日は山という字を書きます」

ええー、そこからっ!手っ取り早く

小筆で自分の名前さえ

書ければいいんですけど、といきなり

やる気メーターが下に振り切れる私。

仕方なく、山という字を書く。

和室はシンと静かで、筆を動かす音しか

しない。なかなかにピンと張りつめた

空気感だ。でも字は下手。若い女子

二人の字を見たおじいさんは、

うーんと納得できない顔をし、

「見本を見せるから、こっちに来なさい」

と言う。先生は机に向かって正座すると、

筆をとった。微妙に手が震えているのを

目にし、若干不安になる。

「まず、最初の押さえ」と墨を含ませた筆を

グッと半紙の上で押さえる、と、

ブッという音が静けさに満ちた和室に響く。

おじいちゃん、屁こいてるやん。

その後も、筆を動かすたびに

ブッという音が。志村けんのコントか。

隣を見ると、習いにきているもう一人の

女子の肩がプルプルと震えている。

必死で笑いをこらえているのだ。

いや、私も、爆笑の塊が吹き出すのを抑える

のに必死。もう、お習字どころではない。

3回くらい行ったかなあ。

大を書いたところでやめました。